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ヒアリング: 1996/6/19   刊行: 1996/7/10
 
プラットフォーム商戦たけなわ その5 
 
日本ヒューレット・パッカード(株) 取締役 武内重親氏に聞く
 
(文中、敬称略)
 
  

リード

 

ジャバの登場により、OSについて語ることはもはやまったく無意味である、と威勢のいい言葉が飛び交っている。しかし、マイクロソフトの権勢はしばらく衰える気配を見せない。6月に幕張で開催されたウィンドウズワールドには、20万人近い来場者があふれかえり、立錐の余地もなかった。アップル・ジャパンの礎石を固め、今また、「HPウェイ」で有名なヒューレット・パッカード(以下、HP)という優良会社で、21世紀のプラットフォームを構想する武内取締役に聞いた。


▲フィールドと製品群のマッチング

 

------HPは、西暦2000年にどのような会社を目指しますか? そのためのポートフォリオ戦略は?

「現在、HPの世界売上は、約3兆1,000億円(〜95年10月の会計年度)です。うち、約80%がコンピュータ事業です。従業員数は、約10万人。同期の日本での売上は、約2,000億円。コンピュータ事業の占める比率は、約65%です。

コンピュータ事業は、4つの製品群に分けています。まず、『コンピュータ・システム』ですが、これはUNIX系の製品です。次に、『コンピュータ・プロダクツ』ですが、これをさらに3つに分類。すなわち、『プロダクツ1』はインテル/マイクロソフト系コンピュータで、パームトップやクラスター・サーバーなども含まれています。『プロダクツ2』は、レーザー技術系のもので、レーザー・プリンターが主力です。『プロダクツ3』は、インクジェット・プリンターです。これらを、カスタマー・サポート部隊が支えています。しかし、コンピュータ市場はダイナミックに動いており、HP社内でも、ビジネス推進の責任分担について混乱が生じつつありました。そこで、95年8月から、この状況を打開するべく、検討作業を始めたのです。HPソリューションをもっとも効果的に提供するには、各フィールドへの対応をいかに整理するべきか、これが問題の核心でした。このプロジェクトを率いたのは、執行副社長のリック・ベルーゾ(Rick Belluzzo)でした」

------フィールド(市場セグメント)の区分けは?

「まず法人ですが、これはエンタープライズ(大規模でニーズが複雑)とコマーシャル(ニーズが比較的一般的)に分けます。さらに、法人に対する個人のセグメントは、コンシューマーと呼んでいます。その上で、ビジネス・オーナーは誰かを、定義づけました。トータルな意味で、誰が特定の製品群の責任をとるか、ということです。コンピュータ・システムのオーナーは、エンタープライズ部隊です。コマーシャル部隊は、プロダクツ1とプロダクツ2に責任を持ちます。最後に、コンシューマー部隊が、プロダクツ3のオーナーです。この新機構はゴールデン・ウィーク明けに発表したばかりですが、96年11月の新年度開始までに、具体論を決める必要があります」


▲なぜPC世界一となるのか?

 

------コンピュータ市場でのHPのポジショニングは?

「最近DECを抜き、世界のコンピュータ市場で、HPはIBMに次ぐ企業となりました。当社のサイズは、グロスでIBMの半分弱です。ところで、PC市場で前評判が高いのは、次のように理解するべきだと考えています。HPは年商で3兆円を超す巨大企業でありながら、ここ3年ずっと20〜25%の高成長を記録している。利益率も高い。ホームPCについては、95年に参入したばかりなのに、96年1〜3月期にアメリカでいきなり3位に躍り出た。そんなことから、西暦2000年にPC世界トップはHP? といった調査会社の予測が出てくるのでしょう」

------私もHPのカラー・インクジェット・プリンターのユーザーです。最高の性能ですね!

「ありがとうございます。(笑)プリンターの場合、300DPIとか600DPI、1,200DPIといった数値で性能比較がなされます。しかし、数値が大きくても、鮮明度が落ちる場合もあり、またカラー・マッチングに関しても、同じハードとインク素材でも、印字品質には大きな違いが出ます。ドライバー・ソフトの水準によるんですね。当社のレーザー・プリンターは、キャノンのエンジンを積んでいますが、HP品質を実現しているのは、まさにフォーマッター、すなわちソフトゆえなのです」

------水平協業時代のPCの差別化要因は?

「確かに、チップなどの素材は、皆、同じものを使えます。しかし、インターフェイスは千差万別です。今、重要視しているのは、DMI(Desktop Management Interface)です。現在、マイクロソフトなどと、DMIのパソコンなどへの標準搭載を行なうべく動いています。特に企業ユースのデスクトップに関しては、必要です。HP社内だけでも、10万台のPCが動いています。たとえば、ワープロ・ソフトのバージョン変更の時、各人に任せていたのでは、相互運用性が破綻します。LANとインターネットやイントラネットが錯綜してきているので、アドレス・セットの管理も不可欠。そんな配慮をしながら、PCは、電話のような汎用ツールにするべきだと考えています」


▲コンシューマー、コマーシャル、エンタープライズ

 

------個人市場で提案するソリューションの例は?

「たとえばイメージングというソリューションです。PCにディジタル・カメラやスキャナーを装備し、編集ソフトも搭載して、スーパーに置いておく。来店した顧客がたとえば七五三の写真を郷里に送りたがっているのを見たら、今のPCセットをネットにつなげて、カラー伝送して見せる。受取場所は、郷里にあるそのスーパーの支店だったりします。簡単、高品質、かつ手ごろな値段であれば、みんなそんなサービスが欲しくなるはずです」

 

------コマーシャル分野は、武内さんの本領を発揮できるところですね。

「ネット環境にはネットワーク・ソリューションの提供が、今後必須となります。HPにも、『オープンビュー』というネット管理やメール・サービスのためのサーバー・ソフトがあります。これは、通信のトラフィックを測定し、ネット上の隘路を検知し、故障箇所を発見してくれます。通信関連ソフトのアップグレードに関し、アドバイスも行ないます。また、96年5月には、ネットスケープとイントラネット分野で提携し、ネットスケープの既存ソフト資産を、UNIXに移植する作業も進めているところです。

また、まだあまりお披露目していませんが、閲覧したWWWなどのページを、速く、綺麗に、簡単に、歪みなく印刷するためのソフトも、実は、開発中です」

 

------エンタープライズ向けのソリューションでポイントとなるのは?

「この方面では、ネット上のセキュリティーがポイントです。TCP/IPによるインターネットは、そもそも透明な空気のようなものなので、セキュリティーの概念とは対極に存在しています。しかし、そのオープンな道にもガードレールをつくってあげればいい、と考え、今それをやっています。つまり、道にアプリケーションを乗せるためのセキュリティー環境を整備しているのです。インフォミックスやジェムプラスと協力しながら、開発しています。この整備が済めば、ミッションクリティカルな(失敗が許されない)インターネット上でのバンキングなども可能になります」


 

 

▲キャリア・パス

 

------最後に、武内さん御自身の今後のキャリア・パスは?

「80年代なかばにHPで作成されたミッション・ペーパーがここにあります。題して、『コンピューティングの変遷』 これによると、2000年前後に、コンピュータはインフォメーション・アプライアンス(情報家電)になると予見しているのです。実は、このことを知って、私はHPに参加する決意を固めたのです。アップルにも同様なビジョンがありますが、HPの方が、よりゴールに近いと確信したのです」

------そういう武内さんにもっとも影響を与えた本は?

「5〜6年前に読んだ本ですが、アルビン・トフラーの『パワー・シフト』です。これは、まさに今起こりつつある情報通信が牽引しているパラダイム・シフトを予見。コンピュータ市場でも、パワーは、つくる人からチャンネルに、そして使う人へとシフトしてきました。この中で商品提供者はどう変わるべきか、かつ、パワーをえたら、どう責任を担うべきなのか? 情報の格差がパワーの源泉となる社会には、また固有の問題が待っています」■■■

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