- ### 「タイヨウ」の驚き ###
-
- (景色4/29>記録5/4)
-
- 緑の日、4月29日(旧昭和天皇誕生日)に、陽光きらめく野火止台地を滑走した。駅前のQBハウスで散髪してもらおうと思って入店したら、結構待たされそうだった。白日晴天下の風の誘惑には勝てず、すぐに店を出た。そのままアゼリア花盛りの様子をとことん眺めて回ろうと思ったのである。
-
- ツツジやサツキという名前は、もちろん少年のころから誰でも覚えるし、アゼリア(ツツジ)系統は春の幔幕(まんまく)として日本中に遍在しているので、逆にあまり気にもとめていなかったが、最近になって、その種類の多さに目を開いた。アゼ
- リア族の特徴は、カールした長いマツゲのような、その蕊(しべ)の形にある。開花の潮が満ちると、葉が花のマスに埋もれて、まるで赤やピンクの宇宙の海に鮮緑の星々が浮かんでいるように見えてくる。少し緑の密集しているところは散開星団だ。
- full bloom
のカラフルな宇宙に、緑の星がまたたく。近くでは、羽衣ジャスミンが何千もの五弁の小花を並べて、馥郁の夢に誘う。
-
- 行き行きて仙境。涅槃寂静(ねはんじゃくじょう)ならず。真夏日の中の、そよという涅槃の微風。nirvana
breeze。脳内に透明な甘いシロップが、ぽたりと落ちて染み渡る。下天(けてん)の爽快なクールが、すっかり意識を占領する。
-
- あるポイントで、真っ赤な太陽のトーチのような花が目に飛び込んできた。10本ほどのトーチが、2〜3メートルの空間に浮かんでいる。朴葉のような形の濃い緑のやや下垂した葉がぐるりめぐって蓮華座(れんげざ)をなし、真っ赤な花房を載せている。私は一目散に回り込んで、その花のもとにアクセスした。するとそこは、人家の敷地の中で、おりしもご主人と腰が90度に曲がった媼(おうな)が外出しようとしているところであった。真っ赤なトーチを見上げる私の姿を見て、一瞬怪訝そうな表情を(当然のことながら)示したいかつい体躯のご主人に、その花をしっかり嘆賞させていただくことの許しを請うた。彼は、異邦人を追い散らかすことなく、その花の名前を「シャクナゲ」とだけ教えてくれた。緑の土台の上に花開いた深紅のコントラストは、得も言えない。3メートル半ほどの樹高。真っ赤な花の篝火(かがりび)部分は、よく見ると10以上の花がネギ坊主のように球状に密集したものだった。シャクナゲの樹の上には、みごとに手入れされた高砂(たかさご)の松が、水平に枝を伸ばしてオーラのように架かっていた。バックは、スカイブルー一色。
-
- 石楠花の 赤に恍惚 蝶の庭
- シャクナゲノ アカニコウコツ チョウノニワ
-
- 亭々たるシャクナゲは、その家の敷地の中門の横を守る位置に立っていた。その中門の中をうかがうと、玉砂利が綺麗に敷き詰められて、音もなくしんと静まりかえっていた。純白の牡丹が風に揺れて、黄揚羽が舞っていた。視線を上げると、中門の屋根のすぐ上に太陽があって、視界が眩暈(げんうん)のようにハレーションを起こした。
-
- シャクナゲもアゼリア族だが、葉と花の相対的な位置関係が、普通のツツジとは異なっている場合が多い。シャクナゲを知らないわけではなかったが、深紅大輪(正確には密な花房の群)のシャクナゲの存在は、生まれて初めて認知した。調べると、「
- タイヨウ」という種類のシャクナゲのようだ。嬉しい出会いとなった。
- http://www.kagiken.co.jp/new/kojimachi/hanahaku035_spring-april-2004.html
- http://www.ne.jp/asahi/kumagaisan/flowers/shakunage.html
- http://www.sainet.or.jp/‾jurian/event/2005s/20050429-20050508/
- http://www.izu-np.co.jp/news/knews/05042502.htm
-
- ところで、その甘い余韻を胸に、グリーンハウスのところまで来ると、自民党の広報用立て看板の上にマジックで書かれた悪戯書きが、なぜか目の端にふれた。引き返して停止し、まじまじと眺めてみた。すると、そこには「すべては音もなく静まりかえっていた。まるで宇宙全体が壮大な失敗作であるかのように・・」とあった。行き行きて神軍(しんぐん)。
-
- 不思議に納得してしまった。これだけの豊穣なアゼリアの海の中では、たしかに氷塊のひとかけらも欲しくなるというものだ。君は偉い!と、つい呟いてしまった。数学者のクルト・ゲーデルに、有名な「不完全性定理」というのがある。これは、「系の中にひとつ以上の不完全なものが存在していることによって、逆に系全体の存在の正しさが担保されている」という趣旨のものであると、私は以前から勝手解釈している。その「数学的な!」証明手順は講談社のブルーバックスの1冊の中で解題されているので、お時間を有効に活用できる方には、ぜひご一読をお奨めする。(ブルーバックスB-947、吉永良正『ゲーデル・不完全性定理』)
-
- 花々の放埒な輝きは、闇夜の「うめき」の存在にもかかわらず、眼前に確固として存在している!
-
- この日は、まだ満開のボタン桜の樹があった。もちろん、大半のボタン桜はもう散っていたが、個体間の時差は明らかに存在している。白とピンクのハナミズキは、後半戦にさしかかっている。フジは盛りだ。ボタンは、一気に開花したが、28日と29日の高温に、ややへばり気味のようでもある。グラウンドカバーのカルミアは、蕎麦屋の敷地で、人知れずスマイルしている。路傍や駐車場の隅では、ピンクや赤のエビネもがんばっている。白や紫やえび茶のジャーマンアイリスも、そこかしこで目ざめた。わが家では、いつもの通り、ラベンダーの紫が佳境に入っている。タチツボスミレの葉の横では、宿根草(しゅくこんそう)のモミジアオイが、地面を割って、新芽を突き上げてきた。コスモスも発芽している。もの皆、タイヨウの放射の中で、不完全性定理を溶かしながら、気を発している。
-
- そういえば、緑の日の翌30日は、わが亡父生誕の日であった。
-
-
- ちなみに、4/9、4/10、5/3にも写生行をしているので、flower
spectrum
(花のスペクトル)の遷移などを、簡潔に記録しておきます。
-
- (景色4/9>記録5/4)
-
- *花ずおう: 桃色とすおう紫。結構鮮烈な立木。遠目にはハナ桃だが、接近すると、個々の花がかなり小粒なので違うとわかる。その小粒の花をクローズアップで見てみると、おなかぽってりの花袋があって、明らかに豆科の一員であると判明する。
- *レンギョウ: 燃え立つ黄色〜薄い黄色。野のそちこちに。中分類4種。英語では「FORSYTHIA」と呼ぶことを、少し前だが、ホテルオークラで知った。4月4日、オークラ別館「カメリア」の出口横のエレベーターホールの奥/壁の前に、みごとな「FORSYTHIA」の生け花ディスプレーがあった。フォーサイシア。3メートルほどの樹高があった。レンギョウを主役にしたディスプレーは、初めて見たが、見ると、他に真似する人が少ないことがむしろ不思議に思えてくる。アメリカのガーデニングサイトで、「春の花々の
herald (先触れ)は FORSYTHIA
である」という趣旨の表現を確認することもできた。
- http://www.freep.com/features/living/hair2_20040402.htm
- http://www.naturehills.com/new/product/searchresult.aspx?search=Forsythia&ovmkt=6TL4TEQ1FFTRVE1T8KIN6CT1I8
- *口紅水仙&ラッパ水仙
-
- 連翹の 黄金に勝る 色はなし
- レンギョウノ コガネニマサル イロハナシ
-
- 春のみち だいだい嫣然 リップ水仙
- ハルノミチ ダイダイエンゼン リップズイセン
-
- 袈裟ごろも 汗にはだけて 紫もくれん
- ケサゴロモ アセニハダケテ シモクレン
-
- 大津波 ノアの末裔 里おもふ
- オオツナミ ノアノマツエイ サトオモウ
-
- *小泉葡萄園のキジ/孔雀: いつものように
cage
の中に、キジ/孔雀明王を認める。野火止や少し川上の荒川河川敷では野走りのキジに出会えるので、檻の中のキジというのも、ある意味興ざめではあるが、檻の中でもなおキジがいかに元気に地面を蹴り回る鳥であるか、あらためて視認することができる。桃太郎が、その家来にキジを加えた理由も、一目瞭然ではある。
- *小泉葡萄園のピーターラビット: 広大な葡萄園の中、野生と放し飼いの中間領域。草むらで無心に菜を、もぐもぐ食べていた。私の姿を認めても逃げようとするそぶりすらなく、なんだかそれだけで嬉しくなってしまった。英国湖水地方にも、そんな
- 純血のラビットがいっぱいいるんだろうなあ。
- *花にら&カラスノエンドウ: いずれも bird
watching と鉱石探しにたいへんよく似合う。
-
-
- (景色4/10>記録5/4)
-
- 砂嵐の蒸し暑い日、ソメイヨシノ満開。翌日から3日連続の雨で、雨あがりにはほとんど散ってしまっていたから、今年最後のソメイヨシノの花見日よりだった日。「4月頭の桜の花見、ぱっと咲いてぱっと散る」と言うけど、いささか違和感あり。花の飲み会好きの人が言及しているのは、99%ソメイヨシノであって、5月にもまだ花を残すボタン桜やウコン桜や真冬に花姿を披露する緋寒桜のことは意識されていない。ソメイヨシノの花見、と通常は表現を限定してもらいたい。
-
- ソメイヨシノの背景があってこそ引き立つ、深紅あるいは紅白もしくは紅桃白のハナ桃の壮年の樹の満開のみごとさよ! 今年も、数ポイントで定点観測できました。
-
- 三好の高台で、お庭が色咲き分けのハナ桃の宝庫になっている天国のようなおうちを発見。周辺は畑なので、農家である模様。隣家では、牛がもーもー鳴いていた。さらに、その横の家の裏には、奇跡のような枝垂れの桜桃が咲き誇っていた。7〜8メートルの樹高の、その胸の位置から下に咲く花はほとんど白(例外的に一部ピンク)なのに、胸から上は、ほぼ全色ピンクの花が軽やかに垂れているのだ。まるで、二段重ねの歌舞伎の滝流れのセットのようであった。まず市井の人の誰も見ることがないであろう、そのような位置にも、等しく開花の贅沢は実現していた。あまりにも、もったいないような気がしてならなかった。
-
-
- (景色5/3>記録5/4)
-
- *なお アゼリア各種の天下
- *クレマチス(テッセン/カザグルマ)各種、出てきました!
- *フジ
- *キリ
- *クサフジ!!!>ひと掴み採集、家に持ち帰り金沢金箔工芸館で入手した金地の花瓶(浮彫は竹林)に活ける! 新発見の「新しき天体」。開高健が美味の体験で使った用法にならって、私は新しい花との出会いを「新しき天体」にたとえて表現する場合があります。実は路地で採集した時は、カラスノエンドウと錯覚していたので、自分の無知を恥じたものの、未知だった逸品に出会えて嬉しいです。昭子母が、シュールな形に活けてくれました。
- *スプリングシュークリーム(仮名)>正式には「モッコウバラ」と帰宅後に判明! すごいクリームゴールドのボリューム感
- *エニシダ(金雀児) 鮮やか
- *ポピー
- *「ボタンの次は芍薬」と言う通り、芍薬の大輪が目ざめる
- *八重のヤマブキ 鮮やか
- *ピンクとオレンジ混合のヒヤシンス型の花(名前不明)
- *ボタン桜なお少しだけ名残あり
- *ハナミズキ残照
- *「ミモザの葉が妖変して銀葉アカシアとなる」の意味を現物で確認!
- *ベニバナトキワマンサク 中高木 遅咲きの木だろうか (赤のマンサク開花を今年初めて見たのは4月頭だった)
-
- end of this document
|