竹本隆の「It's 外資 この人」 初出は月刊「ニューメディア」1998年3月号
                      
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    デルコンピュータ(株) 代表取締役会長 吹野博志氏
 
   「PCマーケティングも4Pから4Cの時代へ」

                     竹本隆  メディア・アナリスト
 

リード
 
 最近、デルコンピュータは、インターネット経由での同社製のパソコン販売額が、1日600万ドルのオーダーに達した、と発表した。(デル・ストアは、97年3月に日商100万ドル、同7月に日商200万ドルを記録。この数字は、急伸している) 600万ドルということは、125円/ドルで計算しても、1日7億5000万円、すなわち年率換算2700億円を超える水準である。デル・ワールドワイドの年商が、97年1月期で約1兆円、98年1月期で約1兆5000億円(アナリスト@ウォールストリートの予測)なのだが、1兆5000億円に対しても、20%近いオーダーの数字である。現時点で、デルは、インターネット・コマースでもっとも成功した会社(のひとつ)といって間違いない。「初心者ユーザーを戦略的なターゲットにはしていないデルは、1000ドルパソコンのようなものには、ウェイトを置いていません。ローエンドでは、金額は大きくなりませんが、台数は稼げます。特に、コンパックさんのようなところは、そういう台数を稼ぐマーケティングをやっておられます。しかし、デルはそうではありません」(吹野会長) 米国の調査会社IDCが集計しているパソコン市場のシェア・ランキングは、台数ベースであり、金額ベースのものはない。金額ベースで集計すると、デルの位置はもう少し上にくるはずである。ハイエンド戦略に徹するデル本邦法人のトップ、吹野博志会長に聞いた。
 

本文
 
▲マーケティングは4Pから4Cの時代へ
 
 ワン・トゥ・ワン・マーケティングの時代と叫ばれ始めて、すでに久しい。
 かつて、マーケティングといえば、4Pだった。すなわち、
 
   PRODUCT       (製品)
   PRICING       (価格政策)
   PLACE        (販売・流通チャンネル)
   PROMOTION      (販売促進活動)
 
 これに対して、ワン・トゥ・ワン・マーケティングでは、4つのPに対応して、次の4Cを強調する。
 
   CONSUMER [CLIENT] (顧客)
   COST         (予算あるいはサイフ)
   CONVENIENCE     (便利さ)
   COMMUNICATION   (文字通りコミュニケーション)
 
 いわく、いくらいいものをつくっても、ニーズないところに商圏は成立しない。顧客(クライアント)の方に、常に顔を向けたマーケティングをしなければならない。ひとりよがりではない、痒いところに手の届くようなマーケティング。 
 値段設定は、原価計算もたいせつだが、顧客のフトコロ具合に相談しなければ、買ってもらえない。殿様商売は、もうはやらないのだ。
 どこに立地・出店し、どうモノを置き、どういう動線を狙い、どれだけ動員するかも、確かにたいせつなことではあるが、モノ過剰社会の中では、絶対、コンビニエンスのいいところで買い物をしたい。スクエア/デジキューブの「ファイナルファンタジーVII」が、コンビニでいきなりあれだけ売れたのには、それなりの時代の法則があるのである。
 宣伝広告は、いまや一方的な情宣活動ではない。欲しいモノ、欲しいサービスにふさわしい、聞きたいメッセージを、顧客にピンポイントして届ける、細やかでインタラクティブなコミュニケーションこそ、たいせつなのである。
 
 デルは、そんな4Cの時代の申し子のような会社である。
 
 
▲目まぐるしい市場
 
「米国でデルコンピュータができたのは84年ですが、当時、パソコンの世界でやっていたコモドールとかアタリとかタンディは、全部やめました」
 その後、デルやコンパックなど新興メーカーが伸びたことは、すでに周知の通りである。
「つい2〜3年前までアップルは世界のトップPCベンダーでしたが、最新のIDCデータによれば、すでにグローバルで9位にまで落ちてしまいました」
 
 パソコン市場の転変のはやさを、よく物語ってくれている。
 逆に、デル・モデルは、成功した典型例のひとつになっている。デルは、自社の方式について、「ダイレクト・レスポンス・マーケティング」と表現している。
 無店鋪販売である。だから中間流通コストがかからない。はやくからインターネット上に「デル・ストア」というショップを開設し、オンラインでデル製のコンピュータを購入できるようにした。ユーザーのコンビニエンス要求に、まさにフィットしたかっこうだ。ウェッブ上で、「自分好みの仕様」を、ユーザーが画面と対話しながら設定できる。それに対して、見積りがすぐ提示される。情宣活動ではないコミュニケーションが、そこにある。
 とにかくレスポンスが速く、スマートである。顧客のニーズにダイレクトに直結して、親切に呼応する。まさに、デルの真骨頂である。
 
 
▲好循環は持続する
 
 日本のパソコン市場は、踊り場を迎えている。特に97年後半、絶対数の伸びに少しブレーキがかかった。が、そんな状況でも、デルの販売は堅調である。
「デルは、もっともハイ・パフォーマンスのものを、他に先んじて市場に投入することに繊細に神経を使ってきました」
 最近発売されたインスパイロンを見ても、そのことがよくわかる。30万円台前半で、あれだけのスペックのものを出してこれる。
 
「顧客にとっての値ごろ感のある、しかもほんとうに高性能のものを御提供すれば、売れないわけがありません」
 
 ユーザーの購買意欲を喚起するツボのようなものがあるらしい。価格のカットは、利益を圧迫しそうだが、そこはダイレクト・マーケティングゆえの、数%の利鞘の優位性がものをいう。売れるから、かけ算で勝負ができる。注文生産だから、在庫の負荷はない。すでに1兆円企業なので、仕入れコストのマネージも自在である。
 
 
▲デルの勢い衰えず
 
「97年第3四半期にデルの業績は躍進しました。躍進というより成長の勢いが、引き続き当期も保たれた、ということだと理解しています」
 第3四半期のパソコン出荷台数ベースで、デルは、全米2位(シェア9.7%)に躍リ出た(IDC調査)。1位は、なおコンパックが磐石のかまえである(シェア18.8%)。前期の2位は、パッカードベルNECであった。ちなみに、世界市場では、前期同様、デルは3位の位置を堅持した。
「地域的にも、世界でまんべんなく高成長を続けています。アジア・大平洋地域では、前年同期比89%(金額ベース)アップ。経済が低迷したヨーロッパでも、40%強の成長。アメリカでは、70%以上伸びました。デルのターゲット顧客は、ネットワークにつながった環境にある企業・政府のユーザー、あるいはパワー・ユーザーと呼ぶべき先進ユーザーです。こういう顧客層に、高い御評価をいただいているわけですね」
 フォーカスしたマーケティングを実施しているのである。デルも、実はネットPCを発売しているが、特に力点を置いているわけではない。メニューとして、無視するわけにはいかなかった、ということだろう。
 
 それにしても、景気の低迷にもかかわらずデルの好調が変わらないのは、なぜか? 
「セグメントされた部分を見ると、元気のいいところがいっぱいあるわけです。いまのパソコンより、もっとずっと上の機能のマシンが欲しい人もいっぱいおられます。全国的に展開しておられるあるスーパーマーケットで、デルのパソコンを使っていただいてるんですが、最近、御社のデスクトップは、サン・マイクロシステムズのスパークより速いですね、というコメントをいただきました。これは、もちろんアプリケーションによるわけですが、そういう事例も出てきています。そういう市場も、しっかりいただくつもりです」
 
 
▲UNIX市場を蚕食するパソコン・サーバー
 
「ワークステーションと比較して価格優位がさほどでなければ、顧客にとってもそんなに魅力はないかもしれませんが、現実には、1/3から1/4の価格で高性能パソコンを提供できるわけですから、パソコン・シフトの可能性は十分大きいものと理解しています。ある意味で、UNIX陣営との戦いになっています。われわれは量産効果、インテル・チップのコストの動向、DRAMやハード・ディスクのコスト動向を見ながら、価格の設定と販売台数の予測を行ない、精密に利幅の確保をします。デルが思い切った価格設定のできる理由は、そのあたりにあります。デルの販売台数も世界で年間400〜500万台のオーダーになっていますから、まとまった部品などの購買も可能となっており、これも原価削減要因になっています」
 パワーエッジの価格を見ると、UNIXワークステーションのちょうど1/3ほどになっている。 
「確かに意識したプライシングになっています」
 パワーエッジは、97年途中からの市場投入であったが、98年には、パワーエッジの商品ライン(サーバー・シリーズ)は、デルの全商品ラインの中で、どれぐらいの比重を占めるものになるのだろうか? 近々、ワークステーションの発売も予定されている。
「われわれの予測によって投資家を惑わすことはできないので、予測はいたしませんが、アメリカでの動向が先行しており、アメリカでのデルのシェアも高いため、アメリカにおける数字がひとつのベンチマークになっているのは、否定できないことです。アメリカでは、サーバーがすでに総売上の7〜8%に達しているので、そのあたりがゴールにはなっています」
 
 
▲最速チップの採用にもカミソリの判断
 
 インテル・チップも300メガヘルツを超え、パワーPCも300あるいは350メガヘルツというオーダーになってきた。DECのアルファ・チップの製造部門を先日買収したインテルが、1000メガヘルツ・チップのめどを98年中につける可能性も出てきている。これは綺想の範疇かもしれないが、その1000メガヘルツ・チップを搭載したマックのモデルが、98年中に提案されることはないと、100%断言できる人間がいないこともまた確かである。
 それはともかく、最速チップを搭載したパソコンを、デルは、いつもまっさきに発売してきたし、しかも10〜20%の価格優位性のある製品を投入し続けてきた。その秘訣は、どこにあるのだろうか?
「最先端チップはさておくとしまして、ボリューム・ゾーンに突入するかどうかは、量産スループットの態勢にはいれるかどうか、にかかっています。アセンブル・メーカーがいくら準備万端でも、チップ・メーカーがどうなっているかは、直近にならないと見えないんですね。そんなわけで、慎重な対応が不可欠です」
 
 
▲総コスト・マネジメント
 
「安いマシンであればいいというお客様がいらっしゃるのは事実ですが、ネットワークにつないでハングアップしたりするケースも多く、そのための機会損失は馬鹿になりません。お金に直すとたいへんなコストになるわけで、端末コストが多少安いぐらいでは補えないものなんですね。トータル・コストの大小で判断するべきです。デルの基本姿勢は、マシンそのものが1円でも安ければ、ということよりもトータルのバランスにより意識を注いでいます。システム全体の信頼性、サポートの充実といった、トータルの視点から、お客様に御評価していただく考えです。デルの製品は、トリニトロンのモニターが標準品です。このモニターだけでも数万円しますし、ドット・ピッチを落とせば、安いモニター代で済むんですが、それで失うものもあるわけです」
 プラス/マイナスのトレード・オフの見極めには職人芸が要求される。製造とマーケティングの間に、理想的なコミュニケーション・ループがないと実現できないことでもある。
 
 
▲顧客接触面積の最大化
 
「デル・モデルでは、受注生産(build to order)など、一部だけが紹介されて誤解されている部分もあるのですが、いちばん肝心な点は、販売も開発もサポートも、すべての面で顧客と直接コンタクトを保とうとしている点にあります。サポートという視点からいうならば、すべてのお客様が、24時間、365日、デル・コンピュータに直接はいってこられるわけです。エンド・ユーザーが直接あるいはシステムの方が代表してコンタクトされます。SIが介在する場合もありますが、その場合でも、デルの顧客への密着姿勢は変わりません。本社の開発部隊の人間もしょっちゅう来日していますし、創業会長のマイケル・デル自身が、顧客の声におそらくいちばん直接ふれている人間でしょう。世界中を飛び歩いてエンド・ユーザーに会っています。基本的にユーザーありきの姿勢なんですね。デルの社員自身がマーケットに出て、直接声を聞くのがベストだ、ということを会長が率先垂範しています」 
 顧客とのコミュニケーション、これをみごとに実践している会社、それがデルである。
 
「顧客とのコミュニケーション、これがデルのいちばん大きな財産ですね」
 
 痛いけど、いちばんありがたい声、それはクレームだといわれている。クレームの声がいちばんありがたいというメーカーを、ユーザーはやはりいちばん信じたいものである。そのクレーム処理に、デルは、どのように対応しているのだろうか? 
「デルも日本でのマーケティングを開始してすでに数年経過していますし、(累積)出荷台数も100万台に迫りつつあります。その中で、クレーム処理にもっとシステマティックに対応していこうと考えています。総社員の1/3以上は、サポート要員です。トレーニングもしっかりやります。サーバー専門部隊やノートブック専門部隊をつくって、専門知識を深めさせています」
 
 アジアでは、マレーシアにもトレーニングの拠点がある。
 
 
▲顧客サポートの充実
 
「デルでは、インターネット/イントラネットの活用をいっそう高度なものにしています。デル・ストアでショッピングしていただくだけではなく、テクニカル・サポートなども、フルにネットを活用して顧客利便の高度化をはかっています。これには、いま力を入れて充実させています」
 
プッシュ・テクノロジーを使う手もあるが、どう考えているのだろうか? 
「検討中です。しかし、まだ具体的のどこのテクノロジーを、ということは決めていません。もちろん、ゼロからではなく、デルの米国本社の動向を前提にしながら、ということになるとは思います」
 ポイントキャストとマリンバの評価が高いが、マリンバのカスタネット・チューナーはイントラネット向きである、という声が、現在は多い。
 
「いずれにしても、98年にかけて顧客サポートの充実が、もっともたいせつな課題であると認識しています」
 

  


FACTS

 
デルコンピュータ(株)
 
本社所在地: 〒210 川崎市幸区堀川町580番地
ソリッドスクエア東館20F
TEL: 044-556-4300(代表)
代表取締役会長:  吹野 博志
代表取締役社長:  チップ・サンダース
主要製品ライン: ディメンション(デスクトップ)
         オプティプレックス(デスクトップ)
         パワーエッジ(サーバー)
         インスパイロン(ノートブック)
         ラティテュード(ノートブック) ほか
 
顧客指向の「ダイレクト・レスポンス・マーケティング」に基づいたメーカー直販方式で、日本では1993年1月から販売・マーケティ ング・サポート業務を開始。以来、優れた業績を記録し続けている。現在、日本市場でのシェアは、3%強。
 
特記1: 最近、ジョン・メディカ社長(日本法人)の後任として着任したチップ・サンダース氏は、モトローラの出身である。本社の副会長であるモートン・トップファー氏もモトローラ出身だが、そのご縁でデルに参加したという。
 
特記2: 経営資源は、ヒト、モノ、カネ、情報。デルには、優秀な人材が集まる。デル・ジャパンのスタッフは、取材時点で、約270人。毎月、20人がデル・ジャパンに入社しているという。入社式も毎月行なわれる。常に、アグレシブな人材募集をしていることで有名なデル。そういう柔構造の経営は、いきがいい。
 
http://www.dell.co.jp/
  
Dell Computer Corporation
 
本社: 米国テキサス州オースティン近郊ラウンドロック
創業: 1984年
創業会長: マイケル・デル
副会長: モートン・トップファー(モトローラ出身)
年商: 78億ドル(97年1月期)
製造拠点: オースティン、リマリック(アイルランド)、ペナン(マレーシア)
 
http://www.dell.com/
 
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